裂地

≪掛け軸≫
「曽祖母 米寿祝い手型」
表具の形:行の草 風帯無し
中廻し:昭和初期 祖母の着物
天地:正絹掬い織(しょうけんすくいおり)
軸先:木曽漆 華塗り

 表具に使う裂地は、材料の中でも一番大事で、種類も膨大にあります。中国やインドをはじめとする、諸外国から渡来した裂地は、日本の染織文化に多大な影響を及ぼしました。私にとって裂地への学びは、表具のお勉強と同時に、広い織物の世界へのお勉強の始まりでもありました。

 飛行機などない時代に、大変な労力を掛けて日本へ渡ってきた裂地。良い物は有力者の持ち物として収集され、江戸期には松江藩主、松平不昧が「古今名物類聚」という書物の中で「名物切之部」として、まとめています。これは今で言う「名物裂」というもので、持っていた大名や、能の演目、産地などが裂地の名前に付けられて、現在でも柄などを復刻させて織られています。

 この裂地の名称ですが、名物裂以外では、例えば「白茶地牡丹紋唐草金襴」と一見、呪文の様にみえます。実は法則がありまして「裂の地の色」「紋様の種類」「織物の種類」の順になっています。つまりは「白茶の地の色の、牡丹唐草の紋様の、金襴の裂地」という意味になります。

 渡来してきた裂地は、高僧の袈裟や能の衣装、そして表具などに使われました。素材は絹や綿です。種類は、一番重宝されたものとして、漆を塗った紙に金箔を貼って細かく切ったものを織り込んだり、糸に金箔を巻きつきた金糸を織り込んで柄を出す「金襴」があります。その他には「緞子」「紗」「絓」「間道」「モール」など、多種多様な織物があります。

 表具には、古くから主に金襴、緞子が使われ、刺繍のものや着物なども使われています。現在、表具に使う裂地「表具裂」として、京都の西陣などで織られたものを使うのが一般的です。着物の反物とは違う、掛け軸に使いやすい寸法で、表具専用として織られています。紋様は、表具裂では牡丹唐草紋様が一番多く、草花紋様、兔、龍などの動物の紋様、松、梅、桐、波、雲など、実に多く存在します。表具には、仕立てる作品と関連したもの、作品の空気感の広がるものを選ぶよう努めます。

 名物裂をはじめとした古い裂地は、大変深い魅力のあるもので、簡単には味わいきれないものです。室町時代の裂地となれば難しいですが、百年ほど経った裂地ならば、専門店で実際に手に取ることができます。そういった古い裂地を、実用ではなく、鑑賞するものとして表具に使うというのは、なかなかに贅沢なことでしょう。表具師としては、その裂地の意味、特徴、魅力などを知り、感じることで、さらに趣のある良い表具を仕立てられるのだろうと思います。