無くてならない材料たち

〈写真〉
上:軸先
左下:掛け緒・巻緒
右下:鐶
当たり前のことではありますが、物を作るときには必ず材料が必要となります。様々な表具の仕事にも、それぞれ特有の材料があります。掛け軸の場合には、裂地、紙のほかに、掛けるための紐、その紐を付けるための金具、巻く時に持つ軸先が挙げられます。特に「軸先」は、巻く際に持つ機能とあわせて、裂地との取り合わせとしても大切な部分です。その材質は木、漆などの塗りのもの、金物、陶器、動物の牙、角、樹脂などがあり、色柄や形も多種多様です。
それぞれに位の高さ、使う作品に対してある程度決まりがあります。例として、仏画や仏僧の書には金物を使い、骨や象牙は使わないことや、茶室で使うものには塗りのものを使用するなどです。実に多くの柄や種類があるため、裂地同様に選ぶのに悩みます。軸先はいわば、一番下の両脇にくるワンポイントに過ぎませんが、ワンポイントだからこそ変に目立って浮いたりすることもあります。洋服選びでの、靴やアクセサリーに近い存在かもしれません。
掛け軸を掛けるための紐を「掛け緒」といい、掛け軸を巻いて納めるための紐を「巻き緒」といいます。この紐も単なる紐ではなく、掛け軸のための作られた紐です。紐でいうと真田紐などが有名ではありますが、真田紐は茶事の茶碗などの桐箱に掛ける紐で、掛け軸に巻くには硬すぎて扱いづらいため、掛け軸には専用の柔らかくしなやかな紐になっています。これもまた色柄に種類があり、中の作品、裂地との相性で選びます。そしてその紐を取り付けるための金具。これを「鐶」もしくは「釻」といって、これにも形、素材の違いがあります。主流ではニッケル索材が多いですが、手作りの鉄のもの、銅のもの、形も菱形、楕円型、花形と多種あります。
色々と種類のある軸先、紐、鐶ですが、軸先は掛け軸の取り合わせの一部として、掛けたときに目に入る部分です。しかし紐と鐶にいたっては、掛けたときにはほぼ見えない部分です。見えないものにまで、どうしてそんなに種類があるのでしょう。修行当初、私も不思議でありました。そんな私の疑問に、師匠は「紐と鐶はいわば玄関です、しっかり選んだほうが良いですよ」と仰ったことがありました。桐箱の蓋を開けた時、まず目に入るのが紐と鐶です。だから良いものを選ばなければ中の作品、表具の良さを感じさせられない、というわけです。
最後に、仕上がった掛け軸を入れる桐箱。桐ダンスと同じく、防虫効果と保湿に優れた掛け抽の保存に適した箱です。桐箱の蓋の天板には、作者が表に題名、裏に落款を人れる「箱書き」がなされます。一般的には、桐箱を入れる紙の箱である「紙タトウ」に人っていよすが、箱書きを守るため、桐箱をさらに塗りの箱に入れる「二重箱」というものもあります。
以上のように掛け軸だけでも裂地、紙、軸先、軸棒、紐、鐶、桐箱と様々な材料を組み合わせて作っています。そして大切なのは、全てにその材料を作る、それぞれの職人がいるということです。一幅の掛け軸を出すとき、桐箱の良さ、紐、鐶、軸先、そして作品、表具と眺めていただくと、また違う表具の奥深さを感じていただけると思います。

