巻子

 雷舟の「山水長巻」や「鳥獣人物戯画」などの巻子、いわゆる巻物を仕立てることも表具師の仕事です。巻物というと漫画などで忍者がもっているようなものを想像するかと思いますが、古くから東西文化の双方にありました。西洋ではパピルスや羊皮紙を巻き物状の書簡にしたり、東洋では書写の材料に使う木や竹を紐で繋げ合わせた、いわゆる木簡や竹筒も巻子の初期の形態です。巻子は冊子や折帖など本としての区分になっていて、最も古い本の形といえ
ます。

 紙が作られるようになってからは、東洋では材質を紙とした巻子が主流になり、現在までその形はほぼ同じです。巻子は物事の記録の他、写経のために作られたものが最も多く残っています。このお経が書かれた巻子は、平安時代から鎌倉時代までには何万本という数が作られ、その中には「平家納経」などの華麗なものもいくつか誕生しています。

 ところで皆さんは「経師」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。多くはありませんが、表具師のことを「経師」と呼ぶ方がいらっしゃいます。奈良時代頃は写経を書く人のことを「写経師」といい、巻子に仕立てるのは「装潢手」と呼ばれる職人の仕事でした。また、写経する紙に罫線を引く仕事を専門とする「経師」といわれる職人がいたり、かなり作業の細分化がされていました。そこから巻子の仕事が多くなるにつれ「経師」は巻子を仕立てる職人の名前になりました。奈良、平安時代は掛け抽も「経師」の仕事であったようで、掛け軸を専門とする「表具師」の元になる職人が出てくるのは鎌倉時代あたりです。

 現在は「経師」と「表具師」の一般的な区別はほぼなくなっていますが、今も「経師」の看板を掲げる工房があります。面白いことに、現在「経師」を名乗る方の多くは関東地力で、関西で「経師」を名乗るのは本来の巻子を専門とする方のようです。関東に「経師」を名乗る方が多い理由はいまいち判然としませんが、仕事の内容は「表具師」と変わりありません。

 巻子を仕立てる工程は、掛け軸の工程とよく似ていて、時代から考えると巻子の工程を掛け軸に応用していると感じます。しかし「表具師の巻子は使いものにならず、経師の掛け物はよろしくない」という言葉がありまして、似てはいるものの求められることが違います。巻子は、写経に使う料紙を作ったり、巻頭巻末に金箔などを使って装飾を施したりします。また、掛け軸よりも遥かに長さがある為、紙の継ぎ方、しなやかさや、使う紙の質が掛け軸のものと違います。掛け軸は、作品と裂の取り合わせの具合など鑑賞のための部分が大きいですから、そういった言葉があるのだろうと思います。

 巻子を「実際に使う」ということは、現在ほぼ無いかもしれません。それは表具師も同様で、絵や書を発表するための巻子や、神社仏閣で使われる巻子など、新しいものを仕立てることは少なくなってきたのが現状でしょう。写経は別として、絵巻物などは客人が訪れた際に読み物として一緒に楽しむという枠な使い方があります。ご自分の作品を仕立てたりした場合は展覧会時期だけでなく、たまに広げてご覧になるも良し、また絵巻物などを時折の休日の暇に広げて楽しむのは、なんと風流な光景だろうかと感じます。