掛け軸を生み出す技術

一文字に使った洋服の裂地は、裏打ちしてもフラットにならず、狂いの多い裂でした。裏打ちの紙を薄いものにし、乾燥のさせ方を少し変えて、出来るだけまっすぐになるようにしています。
≪掛け軸≫
菊池 隆志「洋花」
表具の形:丸表具
一文字:洋服布地
中廻し:綿平織り
軸先:アクリル
表具を仕立てるとき、裂地、寸法、そして「仕立て」が重要になります。「仕立て」とは、掛け軸を巻くときは柔らかく、掛けたときは歪みなく掛かるかなど、技術的なことをいいます。裂地や寸法の選択に必要な美術的感覚とは違い、職人としての腕が試されるところです。
表具の大事なことは、一に裂地、二に寸法、そして最後に「仕立て」と、技術的なことが一番後ろにきていますが、これは表具としての仕上がりを軽く考えるものではなく、作品と表具を長く保たせるための、表に見えない裏方的な役割ということなのです。
見るだけではほとんど触れられない掛け軸の工程は、約10工程。細かいものを含めると20近くになりますが、「裏打ち」という工程が基礎として、大変重要です。この「裏打ち」は、作品や裂地の裏に糊付けした和紙を張り付け、乾燥させる工程です。
掛け軸は、」裂地の上に直接作品を張り付けているわけではなく、一文字、中廻しなどのそれぞれのパーツを繋ぎ合わせて作られています。この裏打ちを、一幅の掛け軸では「肌裏」、「増し裏」、「総裏」という3回の裏打ちを行います。3回といっても、仕立てる掛け軸が三段表具とすると、パーツとしては、作品、一文字、中廻し、天地、風帯の5つとなります。作品の材質が紙、一文字が厚い金襴、中廻しが綿、天地が薄手の絹だとした場合、性質は各パーツで全て違います。これらを繋ぎ合わせ、一幅の歪みのない掛け軸にするには、できるだけ素材の調子を合わせなくてはなりません。この調子を合わせるために「肌裏」「増し裏」を行います。
裏打ちは、単に糊付けした和紙を、作品や裂地に貼ることではありません。紙や裂地の性質に合って、かつ、他のパーツと調子の合う紙を選び、工程に合わせた糊の付け方が必要となります。それには裂地の特性、紙の特性はもちろん、墨や絵の具などの特性も知らなければなりません。各パーツを繋ぎ合わせ、掛け軸の形にした後に、最後の総裏を施します。柿渋を塗った、「仮貼り」という板に貼り付け、最低一カ月ほどの感想をさせます。雨の日は水分を吸い、晴れの日は水分を出し、掛け軸が呼吸することで、全体が馴染んでいきます。
なかなか想像しにくいことと思いますが、掛け軸一幅を満足に作るのに、10年の修業が必要とされます。工程だけ覚えるのならば3年で足りるかもしれませんが、掛け軸を触ったことも無い人が、糊を知り、紙を知って、裂地を知るには、やはり10年は必要かと感じます。
現在は、機械表具といって、アイロンを使って裏打ちができるものもあります。利便性で考えれば、圧倒的に機械表具が有利でしょう。そうすると、掛け軸は数日でできてしまいます。修理がしづらいという不便もありますが、技術の進歩で安易になることもあるでしょう。手で糊をつけ、紙を貼り、日をかけて完成させる表具との違いを例えるならば、機械表具は、2時間楽しめるCG満載の映画。手表具は、じっくり見届ける往年の白黒映画の様なものなのかもしれません。

